(※靖臣が子鹿の引越しシーンを目撃する辺りから始まります)
靖臣「本当にそうなのか?」
子鹿「えっ?」
靖臣「お前は本当に引越しが嫌なだけだったのか?」
俺だって子鹿をずっと見ていた。こいつにも俺と同じ何かを感じる。
だからこそ子鹿の言葉に違和感を覚えたのだ。
靖臣「引越しが嫌なだけで死にたいなんて思わないだろう?」
学園祭の時に子鹿が言っていた言葉。
靖臣「引越してばかりでもお前だったらすぐに友達ができるだろう?」
俺やひよ先生たちと同じように。
子鹿「………。あは、分かっちゃった風味ですか。
アタシ、引越しするたびに行く先々の学校でいじめられていたんです。
この街の学校でもだめでした。それで次の引越しも決まっていたのですが、
次の学校でもいじめられるだろうと思って落ち込んでいたんです」
靖臣「そうか……」
未来に対しての絶望感、こいつの中に感じていたものはこれだったのか。
子鹿「そんな時に靖臣サンに助けられたんです」
靖臣「あれはひよ先生が助けたんだ」
ひより「くしゅ、私が助けようとして逆に新沢くんとエノキくんに助けられて」
江ノ尾だ。ここで指摘すると場の雰囲気がぶち壊しになるのでやめておこう。
子鹿「靖臣サンに優しくされて、ひよりん先生やみんなに優しくされて、
自分自身を取り戻すことができたんです」
靖臣「俺はそんな特別なことはしていないさ」
子鹿「いえ、靖臣サンが周りの空気を優しくするんです」
俺は毒ガス製造機か?
ひより「私だって新沢くんのことを見ていてそう感じたんだからそうだと思うのよ」
いつもノーテンキで、俺にいつも果敢にアタックしてきた子鹿にこんな過去があったのか。
俺自身そのことを子鹿の中から感じていたのかもしれない。
だからこそ子鹿に対して何か引かれていたのかもしれない。
そんな子鹿のことを想うと急に愛おしくなってきた。
靖臣「またいつか会えるさ、お前が望むのならな」
俺は子鹿の頭に手をのせる。
子鹿「うん……アタシいつかこの街に戻ってくる……絶対に……」
靖臣「もしお前がまた戻ってきたら、お前を俺の彼女でもなんでもしてやるよ」
子鹿「えっ、それって……」
靖臣「俺、新沢靖臣は、姉倉子鹿のことが好きだ」
ギリギリセーフではあるがようやく本当の気持ちに気づいた
子鹿「う、うん、アタシいつか絶対にこの街に戻ってくるから、約束ですよ!」
子鹿が俺に抱きついてきた。
靖臣「それまではこれで我慢してろ」
子鹿の前髪をかきあげて、その額に唇をあてた
子鹿「アタシ、靖臣サンに会える日まで体を洗いません!」
靖臣「いや、風呂には入れ」
ひより「くしゅ、私失恋しちゃったかな……」
ひよ先生が何かつぶやいた。
靖臣「なんか言ったかひよ先生?」
ひより「くくくくくしゅ!何でもないたい」
無茶苦茶怪しいぞ。しかしなぜ博多弁?
ひより「あ、子鹿ちゃんにこれをあげるわ」
ひよ先生が自分のカバンから小瓶のキーホルダーを外して子鹿に渡す。
ひより「これ、我が家に代々伝わる水晶なのよ。お守りにしてちょうだい」
子鹿「えっ、でもいいんですか、そんなものを?」
ひより「それは願いをかなえる水晶らしいから、子鹿ちゃんが持っていれば必ず新沢くんに会えるわ」
子鹿「ありがとうございます、ひよりん先生」
ひよ先生から子鹿に渡された小瓶のキーホルダー。その中に入っている水晶。
どこかで見た輝き。どこで見たのだろうか?
自分の記憶を探っていると。
子鹿の母「子鹿、そろそろ出るからトラックに乗って」
子鹿「う、うん。お母さん」
ひより「子鹿ちゃん、新しい学校では元気でやるのよ」
子鹿「うん、ひよりん先生!」
靖臣「子鹿、絶対この街に戻ってくるんだぞ」
子鹿「靖臣サンもアタシ以外に他のオンナを作らないようにね!」
なぜか犯罪者にでもなったような気分だ。
子鹿「アタシ、そろそろ行かないと……
それじゃあ、さよなら風味です!」
エンジンがかかる音がして子鹿を乗せたトラックがゆっくりと遠ざかる。
これでよかったのだろうか。
子鹿がこの街に戻って来た時に俺の記憶が失われていて、子鹿を傷つけることがあるかもしれない。
日記をつけよう。未来の自分が大切な人のことを忘れないようにするために………
アタシは中学生活はとても楽しいものだった。
幸いにも中学3年間同じ学校だったからかもしれない。
何より靖臣サンとひよりん先生のおかげであろう。
友達もたくさんできた。しかし、靖臣サンがいなくてとても寂しかった。
そして泣いた。そのたびにひよりん先生からもらったキーホルダーにお願いをした。
「早く新沢靖臣サンに会えますように」と。
そしていつも笑顔に戻るのだった。
最初の頃はずっと泣いてばっかりだったが、徐々に泣く回数は減っていった。
それでもキーホルダーへのお願い事は欠かさなかった。
それを3年間続けた。
子鹿「……もう、限界風味です。靖臣サンのおかげで明るくなれたし、友達もたくさんできました
けど、ワタシにはやっぱり靖臣サンがいないと……ダメ風味です……」
久しぶりに泣いた。その時、遠くから、優しい女の人の声が聞こえた気がする
『我が半身のかけらを持つ者よ……』
そして、遠くからお母さんの声が聞こえてきた。
子鹿の母「子鹿、次は奈々坂町に引越すことになったわよ!
奈々坂学園に入学できるわよ!」
アタシは自分の耳を疑った。
この水晶は本当に願いをかなえる水晶だったのだ。
この後すぐにひよりん先生に電話をした。
本当は一番に靖臣サンに知らせたかったのだが、肝心の電話番号を知らないのだ。
ひよりん先生とは3年ぶりだったが全く変わっていなかった。
ひよりん先生はアタシの奈々坂学園入学を自分のことのように喜んでくれた。
そしてひよりん先生も奈々坂学園で教師になっていることを聞いてすごく驚いた。
子鹿「あの、靖臣サンにもご報告したいので、電話番号分かりますか?」
ひより「……分からないの」
子鹿「分からない風味ですか〜。それならアタシが直接ご報告する風味です」
ひより「いいえ違うの。新沢くん、今はどこにいるか分からないの」
受話器の向こう側のひよりん先生の声は泣いている様に聞こえた。
子鹿「えっ……」
ひよりん先生の話によると、先生の教育実習が終わった後に靖臣サンは突然休学したらしい。
ショックだった。奈々坂に戻れることをすごい喜んだのがウソのように落ち込んだ。
奈々坂学園に入学してひよりん先生が担任を受け持つクラスになった。
この偶然に2人ともすごく驚いた。
入学してすぐ後にひよりん先生から靖臣サンの日記を受け取った。
ひより「これね、新沢くんのお姉さんから受け取ったんだけど、
子鹿ちゃんが持っていた方がいいと思うから……」
この日記でアタシは全ての事情を知った。
日記には靖臣サンが記憶を失っていく苦しみと、アタシへの想いがつづられていた。
そして最後のページにこう書かれていた。
『お前には涙は似合わない。いつも笑顔でいろ!』
アタシの中で何かがふっきれたような気がした。
あの時靖臣サンから分けてもらった優しさを今度は他のみんなにも分けてあげたい。
そして、靖臣サンが戻ってきた時に笑顔で迎えてあげるんだと思ったのだ。
こうしてアタシは奈々坂学園での生活を始めることになった
2年生に進級しもうすぐ学園祭が始まるというある日、
登校しようとしたら靴箱の方がなぜか騒がしい
女子「あれー?私の上履きがない」
男性「すまんすまん。つい昔のクセでな……」
アタシはすぐにこの声に反応した。聞き間違えるはずもない、あの人の声だったからだ
子鹿「靖臣サン、お久しぶり風味です!今までどこに行ってたんですか?」
自然と涙がこぼれ落ちる
靖臣「お、子鹿か?大きくなったなぁ」
子鹿「靖臣サン、アタシの質問に答えてない風味ですよ」
靖臣「いや、ちょっと放浪の旅に出ていて……」
子鹿「靖臣サン、アタシ約束通り奈々坂に戻ってきて、ずっと靖臣サンを待っていました。
アタシを靖臣さんの彼女さんにしてください!」
靖臣「いや、俺今日からこの学校で教育実習なんだ。
教師と教え子の関係でってはちょっとまずいんじゃないか?」
子鹿「靖臣サンとならそういうマニアックなプレイも全然OK風味です!」
靖臣「まぁ、教育実習が終わっても会おうと思えばいつだって会えるから、
それから本格的に付き合おう」
子鹿「はい!」
|